【読書感想】我、弁明せず。 ~ 新しい発見 ~ [読書]
戦前の三井銀行を中心に三井財閥を引っ張り、そして一貫した姿勢で軍部と対峙しながら国家財政の健全化を目指した財界人であり政治家である池田成彬の物語である。
著者がこの小説を書いた動機を「あとがき」で、
「中山素平という名バンカーが“ものすごい人”と言った池田成彬のことが頭から離れなくなってしまった。
そんなすごい人のことをもっと知りたいと思うようになった。そして調べれば調べるほど“すごい人”だということが分かった。なぜこんな筋を通す生き方をしたサムライ経営者3が、忘却の彼方に追いやられていたのだろうか。
成彬はバンカーの枠をはるかに超えた人物であり、不祥事が続く規律のゆるんだ経営者ばかりの現代にこそ蘇らさねばならないと確信した。
そして彼を描くことが小説家として、また銀行に勤務していた者としての責務だと思った。」
と、述べている。
私の不勉強ということもあるのだが、著者が述べているように、本書に出会わなかったら私は「池田成彬」という方を知らずにいただろう。埋もれた先人を甦らせたという点において評価すべき1冊だと思う。
その人となりを知る上で面白いと思ったのは、「第二章 疾風怒濤」。
若き成彬は慶応義塾にはいったものの、塾祖・福沢諭吉の「巧言令色も時には必要」という演説に反発し、福沢に齟齬感を覚えという。
成彬のバックボーンとなった、旧米沢藩藩士であった父・成章による武士道教育では「剛毅木訥」こそ尊重すべきであり、巧言令色なんてとんでもないことであったのである。
他にも福沢が主幹していた「時事新報」も彼の編集方針に違和感を覚えて退職等、魅力ある逸話が並んでいる。ただ中年期、壮年期の話題となると話しが、あまり走らなくなり何か物足りない気がした。
とはいえども、池田成彬の魅力ある生涯を満遍なく、簡便な言葉でつづられているのは好感がもてる。
著者の「現代に蘇らせなければならない」という決意は伝わってくる内容ではないかと思う。
(最高★五個として)
好き度 :★★★ (人物を一人しりました)
お薦め度 :★★★ (読んでみる価値はあります)
かな。
コメント 0